東京地方裁判所 昭和54年(ワ)10693号 判決 1982年1月29日
本訴原告(反訴被告) 株式会社タートル
右代表者代表取締役 千葉和恵
右訴訟代理人弁護士 高山征治郎
同 山下俊之
本訴被告(反訴原告) 東京梱包材料株式会社
右代表者代表取締役 小林忠信
右訴訟代理人弁護士 神岡信行
主文
一 本訴被告(反訴原告)は本訴原告(反訴被告)に対し、金六九八万七〇〇〇円及びこれに対する昭和五四年一一月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 本訴原告(反訴被告)のその余の請求並びに本訴被告(反訴原告)の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、本訴及び反訴を通じてこれを一〇分し、その一を本訴原告(反訴被告)の負担とし、その余を本訴被告(反訴原告)の負担とする。
四 この判決は、本訴原告(反訴被告)勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
(本訴)
一 本訴原告(反訴被告)
1 本訴被告(反訴原告)は本訴原告(反訴被告)に対し、金八七三万三七五〇円及びこれに対する昭和五四年一一月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は本訴被告(反訴原告)の負担とする。
3 仮執行宣言。
二 本訴被告(反訴原告)
1 本訴原告(反訴被告)の請求を棄却する。
2 訴訟費用は本訴原告(反訴被告)の負担とする。
(反訴)
一 本訴被告(反訴原告)
1 本訴原告(反訴被告)は本訴被告(反訴原告)に対し、金四九二万四八七四円及びこれに対する昭和五五年八月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は本訴原告(反訴被告)の負担とする。
3 仮執行宣言。
二 本訴原告(反訴被告)
1 本訴被告(反訴原告)の請求を棄却する。
2 訴訟費用は本訴被告(反訴原告)の負担とする。
第二当事者の主張
(本訴)
一 請求原因
1 本訴原告(反訴被告、以下、本訴及び反訴を通じ「原告」という。)は、昭和五四年四月一三日、本訴被告(反訴原告、以下、本訴及び反訴を通じ「被告」という。)に対し、携帯用瞬間冷却パック(商品名「アイスパンチ」。以下「アイスパンチ」という。)二五万個の製作を請け負わせる契約(以下「本件契約」という。)を締結した。製作代金は、一個当たり金三〇円五〇銭、代金支払方法は、手付金として金五〇万円、残金は原告がアイスパンチの販売先から販売代金の支払のために受け取った手形を被告に交付して支払うとの約定であり、同日、原告は被告に対し、手付金五〇万円を支払った。
2 その後、同年四月下旬ころ、原被告間で、製作代金を一個当たり金三三円二〇銭に変更し、納期を同年四月三〇日、同年五月二五日、同月末日、同年六月五日及び同月八日の五回にわたり各五万個を引き渡す旨約定された。
3 しかるに、被告が昭和五四年五月一二日ころ製作納入したアイスパンチには、その外袋を押打すると外袋が破れて中の薬が飛び出してしまったり、内袋の中の水が自然に漏れて薬品が固型化し押打しても冷却しないという瑕疵が存していた。
4 右瑕疵は、外袋及び内袋に対するヒートシール(接着)が不完全であることによるものであって、被告の重大な過失によるものである。
5 そこで原告は被告に対し、昭和五四年七月二三日付け内容証明郵便をもって本件契約を解除する旨の意思表示をし、同郵便は同月二四日被告に到達した。
6 原告は被告から製作供給を受けるべきアイスパンチ二五万個を大倉総業株式会社外にいずれも一個当たり金八五円で販売する契約を締結していた。
したがって、原告は、右金八五円から一個当たりの原価金五二円六銭五厘(被告へ支払うべき製作費金三三円二〇銭、薬品代金五円九〇銭及び販売経費金一二円九六銭五厘の合計額)を差し引き、一個当たり金三二円九三銭五厘の純利益を得ることが可能であったから、二五万個を販売した場合に得られるべき計金八二三万三七五〇円の純利益を得ることができなかった。
7 よって、原告は被告に対し、本件契約解除に基づく損害賠償として、逸失利益金八二三万三七五〇円及び手付金の返還金五〇万円の計金八七三万三七五〇円並びにこれに対する本件訴状が送達された日の翌日である昭和五四年一一月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因第1項の事実のうち、昭和五四年四月一三日、原被告間でアイスパンチ製作供給に関する契約が締結されたこと、製作代金は一個当たり金三〇円五〇銭、代金支払方法は手付金五〇万円、残金は受取手形で支払うとの約定であったこと、同日、被告は手付金五〇万円を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。
本件契約は単なる請負ではなく、当時アイスパンチについて原告に完成された製品見本がなく、また被告が同種の製作加工をした経験がないことから、原被告双方において研究検討しなければならず、数回の試作を前提とし、原告の検査に合格した製品を供給する約定であった。
また、アイスパンチの袋の製作については、一個のアイスパンチを試作するだけでアイスパンチ約一五万個に相当する材料が必要とされることから、原告が右試作に要した材料等の代金を支払う旨の約定が存していた。
2 同第2項の事実のうち、同年四月下旬ころ、原被告間で製作代金を一個当たり金三三円二〇銭に変更したことは認めるが、その余の事実は否認する。
3 同第3項の事実のうち、被告が昭和五四年五月一二日ころアイスパンチを一部製作納入したこと、その中に水漏れするもの、冷却度が弱いもの、薬品が固型化するものが発生したことは認めるが、その余の事実は否認する。
4 同第4項の事実は否認する。
5 同第5項の事実は認める。
6 同第6項の事実のうち、被告へ支払うべき製作費が一個当たり金三三円二〇銭であったことは認めるが、その余の事実は知らない。
7 同第7項は争う。
(反訴)
一 請求原因
1 原告と被告は、昭和五四年四月一三日、アイスパンチを共同して研究検討し、被告は同人において製作した袋の中に原告から供給された薬品を梱包して試作したうえ、原告の検査に合格したアイスパンチを二五万個製作する旨の契約を締結した。製作代金は一個当たり金三〇円五〇銭(後日、金三三円二〇銭と変更された。)、代金支払方法は手付金として金五〇万円、残金は受取手形で支払うとの約定であり、同日、被告は手付金五〇万円を受領した。納期は、完成品ができたときに協議して決めることとなっていた。また、アイスパンチの袋の製作については、一個の製品を試作するだけでアイスパンチ約一五万個に相当する材料が必要とされることから、原告は右試作に要した材料等の代金を支払う旨の約定が存していた。
2 被告は、同年四月中旬アイスパンチの最初の見本(以下「見本A」という。)を試作したが、袋の材質が厚く、肌触りが悪いことから、原告は袋を厚くすることを指示した。
3 同年四月下旬、被告はアイスパンチの袋に使用する加工材料のうちレトルトフィルムを薄くする方法により見本(以下「見本B」という。)を試作した。ところが、右見本Bは原告による検査の結果、水が漏れやすいことが判明し、さらに研究改良が必要とされた。
4 同年五月上旬から原告の指示により、被告は水漏れを防ぐ接着方法等の研究を重ね、性能のより良い見本C、同Dを製作し、原告にその旨通告した。
5 その後、原告は被告に対し、一方的に契約を解除する旨の意思表示をしたが、そのため被告は契約解除により次のとおりの損害を受けた。
(一) 印刷及び外袋製作費(岡田紙業) 金三〇一万五三六〇円
(二) 内袋製作費(平田商会) 金六万一九六四円
(三) 輸送外函(ダンボールケース) 金五三万〇八九〇円
(四) バック作業加工賃 金四一万九二〇〇円
(五) 内装函(印刷も含む) 金二〇万〇八〇〇円
(六) 運送費 金六万六六六〇円
(七) 機械購入費 金三三万円
(八) 諸経費 金八〇万円
計金五四二万四八七四円
6 よって被告は原告に対し、本件契約に基づき、原告が負担すべきアイスパンチ製作費用相当の損害賠償金五四二万四八七四円から手付金として受領ずみの金五〇万円を差し引いた金四九二万四八七四円及びこれに対する昭和五五年八月四日付け「反訴請求の趣旨の変更」と題する書面が原告に送達された日の翌日である昭和五五年八月五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因第1項の事実のうち、原告と被告が昭和五四年四月一三日アイスパンチ二五万個の製作について契約を締結したこと、製作代金は一個当たり金三〇円五〇銭であり、かつ後日金三三円二〇銭に変更されたこと、代金支払方法は手付金五〇万円、残金は後日受取手形で支払うとの約定であり、同日被告は手付金五〇万円を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。
2 同第2項の事実は認める。但し、原告は袋を薄くすることを求めるとともに、あわせて水を入れる内袋の閉じ方につき単にゴムじめ又は内袋を結ぶというずさんな方法を変更するよう被告に対し申し入れた。
3 同第3項の事実は否認する。原告は被告を信用し、本訴請求原因第1項記載の契約のとおりの製品ができるものと考え、納期を四月三〇日とする合意が成立したものであるから、被告主張のような試作及び検査をする必要はなかった。
4 同第4項の事実は否認する。
5 同第5項の事実のうち、原告が被告に対し、本件契約を解除する旨の意思表示をしたことは認め、その余の事実は否認する。
6 同第6項は争う。
第三証拠《省略》
理由
(本訴請求について)
一 請求原因第1項の事実のうち、昭和五四年四月一三日、原被告間でアイスパンチ製作供給に関する契約が締結されたこと、製作代金が金三〇円五〇銭、代金支払方法が手付金五〇万円、残金は受取手形で支払うとの約定であったこと、同日被告が手付金五〇万円を受領したこと、同第2項の事実のうち、同年四月下旬ころ、原被告間で製作代金を一個当たり金三三円二〇銭に変更したこと、同第3項の事実のうち、被告が昭和五四年五月一二日ころ、アイスパンチを一部製作納入したこと、被告が納入したアイスパンチの中に水漏れするもの、冷却度が弱いもの、薬品が固型化するものが発生したこと及び同第5項の事実(原告が被告に対し、昭和五四年七月二三日付け内容証明郵便をもって本件契約を解除する旨の意思表示をし、同郵便は同月二四日被告に到達したこと)はいずれも当事者間に争いがない。
二 右の争いのない事実に《証拠省略》によれば、次の各事実が認められる。
1 昭和五四年二月ころ、原告は被告に対し、「クイッククール」の商品名のもとに他社が製造販売していた携帯用瞬間冷却パック(掌の上にのせ、握りこぶしでたたいて内側に入っている内袋を破ることにより、内袋の中の水と外袋の中の薬品とが反応し、急速に冷却するもの。)を示し、これと類似の商品(商品名として「アイスパンチ」を予定していた。)の製作販売を計画している旨を告げ、内袋の製作及びこれに水を詰めること、原告が支給する外袋に薬品を詰めること並びに外袋及び内袋にヒートシールを施して梱包することを被告に依頼した。これに対し、被告は右の依頼を請け負うことを承諾し、製作費用を算定することになった。
2 同月下旬、原告は被告に対し、「アイスパンチ」の外袋の製作も被告に請け負わせることを申し入れ、「クイッククール」の外袋の形状、材質を把握していた被告は、紙又は不織布とポリエチレン等を貼り合わせて袋を製作する作業に経験を有していたことから、原告の右申入れを承諾した。
3 同年四月一三日、原告と被告は、被告がクイッククールと同一の形状、機能を有するアイスパンチ二五万個を製作し、原告に供給する旨の本件契約を締結した。但し、外袋に詰める薬品は原告において現物を支給することとし、外袋に詰める薬品の量及び内袋に詰める水の量は原告が指示した。製作代金は一個当たり金三〇円五〇銭、納期は同年四月末日までにまず五万個を製作供給することが約された。
4 同年四月中旬ころ、被告はアイスパンチの最初の完成品を原告に示し、原告においてこれを試用した(握りこぶしでたたいた)ところ、そのすべての製品について外袋から水漏れが生じたため、被告は外袋の材料に衝撃に強いレトルトフィルムを使用する等の改良を加えることとなった。
5 同月下旬、被告は外袋の材料にレトルトフィルムを貼りあわせて改良を加えた製品(被告が「見本A」と名付けているもの、以下、「見本A」という。)を原告に示し、原告が試用したところ、一〇個のうち一個について外袋のシール部分から水がにじみ出るものがあったのみで、概ね商品として良好という結果が得られた。但し、外袋の肌触りがやや良くなかったため、原告は被告に対し、肌触りを良くするよう指示した。このとき、見本Aは外袋にレトルトフィルムを貼り合わせたため、一個当たりの製作代金の単価が金三〇円五〇銭から金三三円二〇銭に変更することが約された。またこのころ、納期についても既に四月末日までに納入することとされていた五万個のほか、五月二五日、五月末日、六月五日及び六月八日に各五万個を納入することが取り決められた。
6 同年五月中旬ころ、被告は見本Aのレトルトフィルムの厚さを五〇ミクロンから三〇ミクロンへと薄くした製品(被告が「見本B」と名付けているもの、以下「見本B」という。)を原告に示し、原告が試用したところ、外袋のヒートシール部分から水漏れが生じた。これは外袋のヒートシールが不完全なことによるものであったが、原告から被告に対する納期が迫っていたため、原告は被告に対し、試用時に不良品のほとんど出現しなかった前記見本Aを商品化することとし、これと同一の製品を原告又はその販売先へ発送するよう指示した。
7 原告の指示に基づき、被告は同年五月中旬以降、次のとおり見本Aと同一の製品を発送納入した。
月日 納入先 数(個)
(一) 同年五月一四日 大倉総業 一万
(二) 五月一七日 和歌山放送 四八
(三) 五月一八日 山口医療器 二四
(四) 同 株式会社ダイシン 二四
(五) 同 森川医療器 二四
(六) 同 原告 四八
(七) 五月二一日 エマーク商会 二〇
(八) 同 吉富常彦 二四
(九) 五月二五日 原告 四八
(一〇) 五月二九日 キャンアート 一〇
(一一) 五月二九日 古賀善人 二四〇〇
(一二) 六月二日 三井生命川越支店朝霞支部 一〇〇〇
(一三) 六月一三日 ユニトレード 三三六
8 右のようにアイスパンチを納入した後、その販売先から原告に対し、アイスパンチの外袋を押打すると外袋のヒートシール部分が破れて中の薬品が飛び出したり、内袋の中の水が漏れて使用する前に薬品と反応を起こし、薬品が固型化して、押打しても冷却しないあるいは冷却度が弱い等の苦情の申入れがあるとともに、アイスパンチの売買契約を解除する者や損害賠償請求をする者がでてきた。そこで原告は、同年六月一六日薬品の検査をするために、被告に支給してあった薬品を引き取った。
9 右のようなアイスパンチの瑕疵は、外袋及び内袋のヒートシールが不完全であること及び一部の製品については内袋の上部がヒートシールではなく単に輪ゴムで止められていたにすぎないものもあったことにより生じたものであった。
10 そこで原告は、同年七月二四日被告到達の内容証明郵便をもって、被告に対し、本件契約を解除する旨の意思表示をした。
以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》
三 被告は、本件契約は単なる請負ではなく、原被告双方において研究検討して数回の試作を前提としていた旨主張し、《証拠省略》中には右主張に沿う部分も存するが、前掲各証拠及び前記認定の事実によれば、原告は被告に対し、「クイッククール」の製品を示してこれと同種の商品の製造を依頼し、被告は「クイッククール」を調査検討したうえで原告の依頼を引き受けていること、被告は梱包資材の製造販売を専門とする業者であって、本件における外袋のように紙又は不織布とポリエチレンを貼りあわせ、適度の熱を加えてシール(ヒートシール)する作業については経験を有していたこと、アイスパンチのような商品は夏期以外には売上げが望めない季節商品であって、原告は被告の技術を信頼して契約から製品の完成販売まで短期間に処理しうる業者として被告を選定し、被告もまたアイスパンチの季節商品としての性格を十分に了知したうえで契約を締結したことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はないから、被告の右主張は採用することができない。
被告は、またアイスパンチの袋の製作については、一個のアイスパンチを製作するだけでアイスパンチ約一五万個に相当する材料が必要とされることから、試作に要した右材料等の代金を原告が負担することが合意されていた旨主張するが、《証拠省略》中、右主張に沿う部分は前記二認定の事実に照らし信用することができず、他に右主張を認めるに足る証拠はないから、右主張もまた採用することができない。
四 以上の事実によれば、被告は本件契約に基づき、アイスパンチを瑕疵のない製品として原告に対し供給する義務を負っているにもかかわらず、前述のような瑕疵を有するアイスパンチを原告に供給したものであって、被告は本件契約に基づく債務不履行責任を負うというべきである。
五1 前記二認定の事実に《証拠省略》によれば、原告は被告から供給を受けたアイスパンチを販売先に対し一個当たり金八五円で販売する約定であったこと、被告へ支払うべき製作代金は一個当たり金三三円二〇銭の約定であったこと、薬品代は一個当たり金五円九〇銭を要したこと、原告がアイスパンチ販売のために費消した販売経費は五〇万個の販売が可能であったとして一個当たり金一二円九六銭五厘を要したことの各事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。そうすると、原告は販売代金八五円から製作代金、薬品代及び販売経費の合計額金五二円六銭五厘を差し引いた金三二円九三銭五厘の純利益をアイスパンチ一個について得ることが可能であったということができる。
2 《証拠省略》によれば、原告はアイスパンチについて次のとおり注文を受けていたことが認められる。
(一) ユニトレード株式会社 二万四〇〇〇個
(二) 株式会社テツセレクション 二万四〇〇〇個
(三) 日東貿易株式会社 六万個
(四) 大倉総業株式会社 五万個
(五) 紫峯産業株式会社 五万個
(六) 藤原商店 九万個
また、右各証拠によれば、その他、株式会社ダイエー、古賀善人らからも、アイスパンチの製品が良ければ注文を得ることが可能であったことも認められる。
そうすると、右の事実によれば、原告が本件契約に基づき被告に対し製作を請け負わせたアイスパンチ二五万個について、原告はこれを販売することが確実であったということができる。
3 以上の事実によれば、原告はアイスパンチ二五万個を販売することにより、金八二三万三七五〇円(32円93銭5厘×250000=823万3750円)の純利益を得ることができたところ、被告の債務不履行により右利益を得ることができなかったものと認められる。
4 ところで、以上認定の事実に《証拠省略》によれば、昭和五四年四月下旬に被告が見本Aを製作し、これについて原告が試用したところ、概ね良好な結果が得られたが、一〇個のうちの一個についてヒートシール部分から水がにじみ出たこと、また見本Aは肌触りが悪かったことから原告が被告に対しさらに改良を加えるよう指示し、その結果製作された見本Bを同年五月中旬ころ試用したところ、全部水漏れしたため、原告は販売先に対する納期も迫っているので被告に対し見本Aを納品するよう指示したことが認められる。そうすると、原告において見本Aもまた完全無欠の製品ではなく、水がにじみ出る等多少の不良品が発現することを予想しえたにもかかわらず、あえて見本Aと同一の製品を納入するよう指示したものと認められ、原告にもこの点につき過失があったものとして、右逸失利益金八二三万三七五〇円及び手付金返還金五〇万円の計金八七三万三七五〇円からその二割を減じた金六九八万七〇〇〇円をもって、被告が原告に対し賠償をすべき損害額と認めるのが相当である。
(反訴請求について)
一 請求原因第1項の事実のうち、本件契約が原被告双方においてアイスパンチを研究検討し、数回の試作を前提としていたこと、またアイスパンチの袋の製作については一個の製品を試作するだけでアイスパンチ約一五万個に相当する材料が必要とされるため、試作に要した右材料等の代金を原告が負担するとの合意があったことをいずれも認めることができないことは本訴請求において説示したところである。
また、原告がした本件契約解除に理由があることもまた本訴請求において説示したところである。
したがって、原告による本件契約の解除を不当とし、あるいは、本件契約の約定に基づき、アイスパンチ製作のために要した費用の支払を求める被告の反訴請求はその余について判断するまでもなく、理由がないといわざるをえない。
(結論)
以上説示したところによれば、原告の本訴請求は前記金六九八万七〇〇〇円及びこれに対する本件訴状が送達された日の翌日である昭和五四年一一月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとし、被告の反訴請求は理由がないから棄却し、本訴及び反訴を通じ訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉野孝義)